マツダで新型の直6エンジンが発表されたけど、どんなエンジンなの?
電動化のご時世、マツダが直6を採用する理由って何?
マツダ第7世代初のラージ商品群であるCX-60がついに発表されましたね。マツダの新技術がてんこ盛りでCX-60に期待が高まる中、注目を集めている直列6気筒エンジン。
この直列6気筒エンジン、そもそもどんな特徴があるのでしょうか?
そして「CASE」や「脱炭素」という言葉が飛び交う自動車業界ですが、なぜマツダは逆風ともいえる直列6気筒エンジンを採用したのでしょうか?
この記事では、直列6気筒の特徴や走りに与える影響、そして電動化時代にマツダが大型直列6気筒エンジンを採用した理由を考察していきます!
そもそも直列6気筒ってなんだ!?
そもそも直列6気筒がわからない!
結論から言うと、こんなエンジンを指しています。
※エンジンの仕組みを分かりやすく解説【バイク・車】 (genn2.com)より引用
「これだけではわからん!!」
という方のために、まずはエンジンの気筒、配列についてざっとおさらいしましょう。
気筒ってなに?
簡単に説明するなら、エンジンの筒のことです。シリンダーとも呼ばれます。最もポピュラーなエンジンであるレシプロエンジンは、シリンダーとピストンを組み合わせることで、クルマの動力を生み出しています。
下のgif動画がわかりやすいかも??
※Wikipediaより引用
筒(シリンダー)の中でピストンが上下に動くことで、動力を発生させています。
気筒数による違い
気筒数とは先ほどの筒(シリンダー)がいくつあるか?ということです。
現在の軽自動車は3気筒、乗用車では4気筒が一般的です。当然ですが気筒数が増えると出力が上がり、よりパワフルなクルマになるため、大型車やスポーツカーでは気筒数が多いです。
一方で部品点数が増えより大型なエンジンとなるため、車両価格も高くなります。
配列による違い
この気筒をどのように配置するのか?という点も、クルマの運動性能を決める重要なファクターです。配列の仕方は直列、V型、水平対向の3種類が一般的です。
直列型エンジン
※車のエンジンの仕組み |HowStuffWorksより引用
上記gif動画のように、直列エンジンはすべてのシリンダーが同じ方向に並んでいるエンジンのことです。多気筒でも比較的構造が簡単にできるので、メンテナンスがしやすいというメリットがあります。ただ、気筒数が多くなると全長が長くなり、ピストンの往復運動を回転運動に変えるクランクシャフトも長くなって、ねじり振動と呼ばれる振動が起きやすくなります。
ただし、「直列6気筒」のみは振動や騒音が少ないことで知られています。
V型エンジン
上記gif動画のように、V型エンジンはシリンダーを左右交互にVの字型に配置したエンジンのことです。乗用車では6気筒以上で採用されることが多く、V6、V8、V10、V12などと呼ばれます。多気筒でもクランクシャフトが短くできるため、コンパクトな設計が可能で、ねじり振動も抑えられます。一方で構造が少し複雑になるため、メンテナンスが難しいというデメリットもあります。
水平対向型エンジン
※車のエンジンの仕組み |HowStuffWorksより引用
上記gif動画のように、水平対向エンジンはシリンダーを水平に並べたエンジンのことです。
ピストンがボクサーのパンチのように動くため、ボクサーエンジンと呼ばれることもあります。独特なエンジン音がするので、「ボクサーサウンド」なんて言われたりしますね。
振動が少なく、車体の重心を低くできるというメリットがあります。一方でメンテナンスが難しいため、コストが高くなります。採用しているクルマは少なく、国内ではスバル、海外ではポルシェの車に搭載されていることで有名です。
実は絶滅寸前だった!?
実はこの直列6気筒エンジン、絶滅寸前だったんです。その主な理由は、衝突時の安全を確保しにくい点にあります。
現代のクルマは、エンジンルームに広い空間を確保して衝突時にドライバーや歩行者が受ける衝撃を吸収するつくりになっています。
ところが直列6気筒は一般的なエンジンに比べて全長が長いため、エンジンルーム内に十分なスペースを確保するのが困難です。このため、20年ほど前からメルセデスベンツや日本メーカーは次第に直列6気筒を諦めるようになりました。
しかし2018年、こうした流れが変わります。
この年、メルセデスベンツが直列6気筒エンジン搭載モデルを発表しました。当時のメルセデスは、直列6気筒エンジンはエンジンの両脇に発電機、ウォーターポンプ、コンプレッサーなどをレイアウトするのが容易で、エンジン全体で考えた場合、意外とコンパクトにできることが復活の理由だと説明しています。
そして直列エンジンはV型や水平対向エンジンと比べて構造がシンプルなため、コスト面で有利になることも直列6気筒が再登場するきっかけになりました。
もともとの問題だった衝突安全性は、技術の進歩によりエンジンの小型化が実現できたこと、衝突時のエネルギーを効率的に吸収できるようになったため、以前ほど困難な課題ではなくなったようです。
直6最大のメリットは振動特性
直列6気筒エンジンの最大の魅力は何でしょうか?それはやはり、振動抑制といえるでしょう。
直列6気筒エンジンでは、クランクシャフトに掛かる負荷が等しくなる順番で、1本ずつ燃料を燃やすようになっています。
※Wikipediaより引用
その燃焼の順番は1→5→3→6→2→4が通常で、ピストンの動きと燃焼のバランスを理想的な状態にしています。
またシリンダー内に空気を吸入し圧縮、燃料を燃やして廃棄する行程でクランクシャフトは2回転します。
この「2回転」が振動を打ち消すためのポイントで、このとき気筒1本ずつのクランクシャフトの回転は120°。
レシプロエンジンが回るときは、ピストンが上下で一旦停止する「一時振動」と、ピストンが上から下へ動くとき、コンロッドの傾きの角度差で「二次振動」が発生します。
これらはピストンが120°間隔で回転した場合に相殺されるので、6気筒型のエンジンは振動が少ないのです。
また日産自動車のエンジニアである林義正氏は、「レシプロエンジンでは振動がなくパワーも出せる直列6気筒が最良であり、理想のエンジンを作るなら直6かV12の2形式以外ありえない。」と述べています。
マツダが直6を採用する理由って何?
それではなぜ、マツダはこの直列6気筒エンジンを採用したのでしょうか?
それはマツダが得意とするディーゼルと直6エンジンの最大のメリット、「振動特性」の組み合わせが抜群だからでしょう。
ディーゼルエンジンは元々振動が大きいです。それは自己着火による高圧縮エンジンだからです。高圧縮の場合、小さな体積から大きな体積に膨れ上がるためピストン内の爆発も大きくなり、それに伴ってピストン上下振動も大きくなるわけです。そのためディーゼルは、どうしてもガソリンエンジンと比較して振動特性が悪化するのです。
マツダが得意とするディーゼルエンジンは、低圧縮で振動を抑えている点は有名です。しかし、それでもガソリンエンジンよりは圧縮比が高く、振動を完全に抑えることはできません。
そこで登場するのが直列6気筒エンジンです。
先に述べたように、これは燃焼の周期によりピストンの上下運動がちょうど打ち消し合い、振動が低減され内燃機関なのに関わらずアイドリング中なども静か。
つまり、ディーゼルエンジン特有のデメリットである「振動」を直列6気筒エンジンにして極力抑えよう!!ということなのです。
これにより、ディーゼルエンジン特有の強みである「燃費」や「パワフルな走り」を維持したまま、デメリットを打ち消すことができます。
ディーゼルx直6の組み合わせでディーゼルの振動を抑える!
マツダが伝えたいメッセージって何だろう
「内燃機関だからこそ感じられるドキドキ、ワクワクを感じてほしい」
「電動化が進んでも、内燃機関が愛されて存続できるものにしたい」
私には、そんなメッセージが込められている気がします。
マツダは「走る歓び」を追求しており、クルマは人生においてかけがえのない存在であってほしいとしています。
内燃機関だからこそ感じるエンジン音、ハンドルに伝わるわずかな振動、エンジンならではの応答性、これらは内燃機関でしか感じることができません。
電動化の波に流されず、「クルマと人が心を通わすことができるクルマとは何か」を追求し、内燃機関の可能性を信じ続けるマツダの精神は本当に素晴らしいものだと思います。
まとめ
この記事では、マツダが新たに導入した直列6気筒エンジンについて、極力わかりやすく解説しました。またなぜマツダが今の時代に、逆風ともいえるエンジン開発に力を入れたのか考察しました。
新発売のCX-60でこの直列6気筒エンジン性能を堪能することができるわけですが、私は待ち遠しくてたまりません。また、電動化時代にこの直列6気筒エンジンを導入したマツダの姿勢と精神に心を打たれました。
マツダには得意とする内燃機関の開発にこれからも期待していますし、電気と内燃機関が共存する世の中を作っていってほしいです。